この世界の片隅に

【監督】片渕須直
【声の出演】のん/細谷佳正/尾身美詞/稲葉菜月/牛山茂/新谷真弓/小野大輔/岩井七世/潘めぐみ/他
【公開日】2016年11月12日
【製作】日本
【ストーリー】
18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はその頃日本海軍の一大拠点で軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった・・・。
『夕凪の街 桜の国』の原作者・こうの史代さんの同名作品を、クラウドファンディング等を用いて制作資金を集め作り上げられた劇場アニメーション作品である本作。SNSなどを通して自分もその評判の良さを知り得ていたものの、公開は限定的だろうなと思い当初は劇場鑑賞を全然視野に入れてなかったんですよねぇ。でもその反響の大きさから劇場公開の拡大が拡がり、おかげで地元でもちゃんと鑑賞できるようになったのは嬉しかったですし、そのお話も感動ができましたね。自分の2016年最後の映画納めとしても、本作は良い締めの作品だなとも思った次第っ。
本作は戦時中の広島・呉市へ嫁ぎに出た女性・すずの日常の出来事を描いている内容のようになっていますが、その日常を時に幸せに、そして時に残酷な面を、当時の情景などを交えながらとても緻密に捉えているのが自分も映像からは感じ取れましたね。こういった戦時中の出来事を扱った作品となるとやはり自分のような世代にとっては経験も無い分どこか教材と言うか資料のような側面も併せ持っているようにも見える時がありますから、そういった意味でも本作の観賞は見応えがあった感じもしますし、知る術もおそらく無かったであろう当時の呉市の生活風景なども、映像ですず達の日常を通しながら当時の出来事を一緒に体験するかのような雰囲気を味わうことも出来た気がする。アニメーションなれどもやっぱり現実の自分たちの過去でもあるというリアリティを出してる部分がきちんと伝わっても来ますから、それが作品に没入できる要因でもあるかもしれませんね。
あと本作を賞賛する上で欠かす事が出来ない点に声優さんの存在もあり、とりわけ主人公のすずを演じたのんさんが素晴らしかったですね。・・・でも実を言うと、当初『のん』なる女優さんまたは声優さんの名前を全然聞いたことが無くて、一体どんな人なんだろうと思って顔写真みたら能年玲奈さんだったんですよねこれがまた^^;芸能関係疎いのかはたまたドラマ関係あんまり見ていないからなのか、芸名を改名してたのを知ったのも実は最近になってからだというのがこれまた無知というかお恥ずかしい限りではあるんですが、でもそののんさんが演じてたすずは本当に彼女しか適性がいないんじゃないかと思うくらいピッタリな感じでもあるんですよねぇ。劇中ですず自身も『ぼぉ~っとしとるけぇ』って言ってるくらいののんびりでおっとりとした佇まいをとても上手く演じてて、多分のんさんも声優初挑戦ゆえの飾らない自然な声当てが功を奏している気もしますね。・・まあ本職の方じゃないと最初少し訝しげに見てしまう気持ちみたいなのは正直自分もあるにはあるんですけども、今回に至ってはのんさんの声と彼女の広島弁にも大変魅了されてしまったのでした。
今の所戦争という邪悪なものが生活に割って入ることも無く、平和にそして普通に生きる毎日・・。少なくとも現代の日本人である自分はこれを何事もないようにして日々を過ごしています。でもそれが本当に当たり前のようになってしまってもいるせいか、その普通に生きるということが如何に大事で有難いものでもあるかというのを再認識させてくれた作品でもありました。そしてそれを説教くさくもせず、すずを中心にした戦時中の市民達の暮らしぶりで微笑ましく描いてもいるので、結果的に『重さ』『暗さ』も然程残らず、見終った後の気持ちもどこかほっこりと幸せに満たされたような感じにさせてくれましたね。
この記事を作成した時点で今年最高の劇場アニメとも称されている『君の名は。』をまだ未見だというのもあってか、個人的には本作が今年最高の劇場アニメーション作品として太鼓判をバンバン押したいですねw