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【監督】河瀬直美
【出演】樹木希林/永瀬正敏/内田伽羅/市原悦子/水野美紀/太賀/兼松若人/浅田美代子
【公開日】2015年5月30日
【製作】日本
【ストーリー】
縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎。そのお店の常連である中学生のワカナ。ある日、その店の求人募集の貼り紙を見てそこで働くことを懇願する一人の老女、徳江が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が彼らの運命を大きく変えていく・・・。
主演の樹木希林さんと実孫の子が共演してたりとか、市原悦子さんとの奇跡の共演とかそういうキャスティングの部分に興味を持ったのももちろん鑑賞理由の一つではありますが、もう一つの理由としてはやはりハンセン病と言うものを自分はあまり詳しく知らなかったからというのも挙げられるかもしれませんねぇ。
昔は『らい病』なる名称の伝染病として誤った認識で世間に広まってしまったというハンセン病。1996年にらい予防法が廃止となりはしたものの、それでも本作を観ると当時の偏見や差別といったものが患者に向けられている現実は今の現代でも然程変わっていないのでは?とも感じる部分もあり、その辺りは観ててちょっと悲しくなる場面でもありましたね。・・ただそう言う自分も色々調べたりしてある程度知り得るまでは、あの女性オーナーさんと大差ない認識だったはずでしょうし、世間の風評にも流されていたんじゃないかなとも思うと、一方的な解釈や無理解などはやはり怖いものだとも感じてしまったりもしますね・・(汗
まあそんな厳しかったり辛かったりな描写もありはしますが、とても温か味のある場面もまた多くて観終わった後は感動も押し寄せてきました。特に徳江さんの役を演じていた樹木希林さんの自然体な演技は本当に見入ってしまうほどで、前半の桜を見ながら無邪気に笑ったりとか、どら焼きの餡作りを永瀬正敏さん演じる千太郎店長に凄いアバウトな教え方であーだこーだ言ってるとことかはもう可笑しかったなあw反面、世間にハンセン病だと知られてしまい施設に戻った後に見せる表情や枯れたような声などは前半と打って変わってな切り替え振りで驚いてしまった。施設に来た経緯やそこで何十年も過ごしてる事、そして千太郎に送ったメッセージ付きのカセットテープ・・。この時点でもう涙も堪えられなくなっちゃいまして、永瀬さんの押し殺すような涙も迫真過ぎて貰い泣きをしてしまうほどだった。これらの名演技を見るだけでも非常に意味のある作品じゃないかとも思いました♪
ハンセン病によって人生の殆どを狂わされてしまった徳江さんの姿は、他人から見ればもしかすると『不幸』という言葉で括られるのかもしれません。けど徳江さんはそれを呪ったり悲観する事をせず、むしろ限りある時間の中で自身の生きてきた意味を見出そうとする力強い意志を感じずにはいられなかった。それこそ、やり残しのないよう後悔をしないために・・。
そして千太郎店長の最後の姿を見ると、彼女の生きた証はしっかりと刻まれているようにも見えました。