アメリカン・スナイパー

【監督】クリント・イーストウッド
【出演】ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー/ルーク・グライムス/ジェイク・マクドーマン/ケビン・ラーチ/コリー・ハードリクト/ナビド・ネガーバン/キーア・オドネル
【公開日】2015年2月21日
【製作】アメリカ
【ストーリー】
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスはそのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる・・・(映画.com)。
御年84歳ながら未だ他を寄せ付けないほど数多くの傑作を生み出しているクリント・イーストウッド監督。そんな監督の最新作は、米軍史上最多160人もの敵を射殺したというネイビー・シールズの狙撃手(スナイパー)クリス・カイルの物語で、本年度のアカデミー賞でも6部門ノミネート、作品賞でも有力視されていましたねぇ。・・・残念ながら結果は音響編集賞だけだったようですが、それでもさすが作品賞候補に挙がるだけはある力作。戦争映画割と敬遠する方なのですがこれは見応えがありました。
・・しかし映画やアニメ、それにゲームと言った娯楽モノでしか見たりする事が無かったため、スナイパーという存在には個人的にどこかカッコイイなんて思いを抱いていたのも正直な所なんですが、本作を観るとそういう羨望な思いは大分見当違いものだというのを感じずには入られなくなりますね。主人公クリス・カイルの戦争体験は自分の楽観な考えなど程遠い正に過酷な現実と言うものを思い知らされてしまいます。
本作は戦争映画ではあるものの、観た感じ『反戦』といった色合いはそれほど濃くは無かったような気がしまして、9.11後のイラク戦争が背景にあるけど、なんかそこまで突っ込んで描いていなかったようにも見えたんですよねぇ?かと言って伝説的狙撃手の活躍を称える内容にも見えなかったですし、どっちかと言えばむしろカイルの心情そのものにフォーカスが当たっていたようにも見えた。彼が4度のイラク派遣で一体どのような気持ちで戦場を駆け巡っていたのか、派兵期間を終えて平和な家庭に戻ったはいいが、戦場の生々しい経験が家族に与えていた影響や苦悩はどういったものだったか・・などをまざまざと描いていますね。
また狙撃手として米軍史上最多、公式でも160人もの人物を射殺し伝説的存在へと崇められ、周りからも自然と英雄視されていましたけど、多分彼にとってその『英雄』という肩書きもひどく辛いものがあったんじゃないでしょうかねぇ?実際ブラッドリー・クーパー演じるカイルの表情を見ると、伝説伝説と言われるたびに酷く居心地が悪いような・・そんな曇った表情や変に作った笑顔のようなものばかりが目立っていた感じに見てしまった。仲間を守る為、祖国を守る為・・・・任務を遂行する事や愛国心が人一倍強かったようにも思えたから、そう言う正義の心にも突き動かされて積み重なった故の記録でもあるんでしょうけども、見方を変えればやはり自身の手で引き金を引き、敵と判断すれば老若男女問わず命を奪った数でもある。自身の意志とは反するのっぴきならない事態も多く見受けられたし、その一瞬の生死の判断でも随分苦しんでもいただけに、伝説が構築されていった裏で彼の精神は徐々に磨り減っていくそんな様子もかなり痛々しかったですね。
・・まあこう見ると結構重くて観る側としてもしんどくなってくるとこが多いんですが、個人的には映画ならではの迫力がちゃんと盛り込まれていたのも見応えあり、後半カイルと反政府勢力側の達人スナイパーとのギリギリの攻防などが描かれていたシーンとかは良かったかなと^^。実録的な作品・・それこそこういった題材だと重苦しくなりがちな部分もありますけど、今回イーストウッド監督はこういうスナイパー同士のせめぎ合いみたいなのを緊迫感溢れる感じで盛り込んでくれていたんですよねぇ。まあ原作未読なのであの対決描写がどこまで事実だったかは定かではありませんが、少なくともカイルが米軍最強で凄腕のスナイパーだったというのを上手く表現出来てる映像ではあったかなと思います。
そう言えば主人公のクリス・カイルの事は4度のイラク戦争派遣を経験し、退役後にPTSDを発症していた元海兵隊員に発砲され38歳でその生涯を閉じた・・というのをざっくばらんながら鑑賞前に知り得てはいたものの、やはりラストで非常に沈痛な思いに駆られてしまいましたね。カイルもPTSDを患っていましたし、おそらく長い事リハビリもしていたのでしょう、ようやく妻のタヤも安心出来るくらいに回復していた矢先の悲劇。タヤが何かを予感していたかのように玄関のドアをゆっくりしめていくラストシーンが妙に印象に残ります。
クリス・カイルの葬儀で彼の死を悲しむ大勢の人達の実際の映像、そして無音のエンドクレジットはイーストウッド監督の哀惜の思いも込められているのでしょう。鑑賞後直ぐ出て行かなければないない程の急用が無い限りは、出来ればその無音の意味を自分達も感じ取るべきなのかもしれませんね。