そして父になる



【監督】是枝裕和
【出演】福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二ノ宮慶多/黄升炫/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲
【公開日】2013年 9月28日
【製作】日本

【ストーリー】
学歴、仕事、家庭といった自分の望むものを自分の手で掴み取ってきたエリート会社員・良多。自分は成功者だと思っていた彼のもとに、病院から連絡が入る。それは良多とみどりとの間の子が取り違えられていたというものだった。6年間愛情を注いできた息子が他人の子だったと知り、愕然とする良多とみどり。取り違えられた先の雄大とゆかりら一家と会うようになる。血のつながりか、愛情をかけ一緒に過ごしてきた時間か。良多らの心は揺らぐ・・・。
【コメント】
是枝監督の作品を劇場鑑賞するのは多分初めてな気がします^^;・・と言うのも、地元では1つしかないミニシアター系での公開がもっぱらなため、単館敬遠ともなってしまっている自分にとっては自然と作品に触れる機会が無い監督さんとなってしまっていたのが正直な所だったりするのですけども、今回カンヌ映画祭で審査員賞を受賞したことによって国内でも一気に注目が上がったようで、ホームグラウンドのシネコンでもちゃんと上映されるようになったというのは嬉しいですね。そしてスピルバーグにも絶賛されたとかいうだけあり、確かに力作。親目線としては観れなかったので、一個人として色々考えながらの鑑賞となりました。

しかし『子供の取り違え』という事件はニュースでも滅多に聞かないだけに、自分がそういうのがあるというのを初めて知ったのって実は漫画『金田一少年の事件簿』からだったりするわけなのですが、本作もフタを開けてみたら単純な取り違えミスとかではなく不純な妬みのような動機で取り違えが行われていたようで、あれは当事者じゃなくともちょっと憤慨する所がありますね--;・・ただ本作は取り違え事件そのものに不満や問題を投げかけているのではなく、中心となるのは事件を機にしてお互いの子供を一時的に交換する事になった2組の夫婦・・・とりわけ主演の福山さんが演じる野々宮良多が葛藤の中で『父親』としての在り方を見出していく物語の方を丁寧に描いている感じだった。
良太パパに関しては父親としてダメダメなのか?なんて言っちゃうと実際はそうでもないのですが、ただ父親としてちょっと接し方や言動に些かトゲが見受けられ、少なくとも斎木家のアットホームさと比較すれば嫌でもそう見えてしまう部分があるんですよねぇ。家庭の事情や教育方針はそれぞれでしょうから良太パパの教育自体がダメというわけではないでしょうし慶多にも一心に愛情を注いでいるってのも分かるんですが、それでも客観的に観てあのやり取りが毎日なのか?と思えば、自分は野々宮家はどこか窮屈にも見えてしまった。それに家を飛び出した琉晴にしても、どこか親の顔色を伺って本音を言わないような大人しい慶多にしても、行動や性格が両夫に似てるとか以前に、あの張り詰めたような環境が子供達をそういう風にもさせたんじゃないかなとも自分は思ってしまったわけで・・・。だからでしょうか、野々宮夫妻に育てられた慶多の方は口数などが少ない分その一挙手一投足が彼の心情を表現してるようでもあり、父親ともどこか普通に接したいような切実さも垣間見えたような気がします。

まあこういう血の繋がりか一緒にいる時間かというのも、家族にしてみれば最大の二者択一でしょうし、しかも6年と言う長過ぎず短過ぎずな絶妙の年月設定も、良多ら夫婦の決断に戸惑いを与えていた1つなのも確かでしょう。
でもやっぱり・・・ねぇ、単純なことですがこういうケースの場合ですとやはり子供の事を大切に想う強い気持ち、『愛する』という気持ちがあるのならば、個人的には血縁だとか時間だとか然程重要じゃないんじゃないかな~?とも思っちゃうんですけどねぇ^^;劇中内のとあるシーンでは良多が親しげに話す男性と一緒に両親の元を訪れるシーンがありましたけども、良多の母親の口ぶりから察するに2人はおそらく血縁上の兄弟ではないとは思う(詳しく語られてなかったので良く分からないけど・・)。
ただそれでも何か良多とはちゃんと親密にコミュニケーションしてましたし、母親にしてもこれまた普通に我が子のように接してましたから、見解としてはつまりはそういう事なんじゃないかな・・・とは思う。もっとも、野々宮家と斎木家は意図的に我が子を交換された立場なので、そうやってざっくばらんに割り切れるほど簡単じゃない複雑な事情であったのも理解した上で、個人的にシンプルな結論で考えてたんですけどね(汗)


けど結果的にはああいう終わり方として着地したのにはどこか安堵で、結構デリケートな内容を扱ってますから苦味が残る結末も想像してただけに、良多がやや遅咲きの父となる辺りはタイトル通りともなって『あ、なるほどっ』と思って妙にスッキリw
根本的な解決とは言えない結末かもしれませんが、でもどうせだったらもうあのまま親睦を深めまくって家族ぐるみ同然の付き合いを続けた方が、元鞘だとしても両家族共に円満な家庭を築けるんじゃないかなとも思いますけどねっ。それもまた1つの選択ではないでしょうか?

4 Comments

cyaz  

ねたみが~

メビウスさん、おはようございます^^
結論から言うと、あの看護師のねたみが
取り違えの原因だったというところはちょっと引きました。
実際、原案にもそういう部分の記述があるのかと、
今原案にした本を取寄せています。
この事件、個人的にはもっとドロドロしていたのでは
ないかと想像します。
絵的には綺麗に仕上がっていましたが・・・。

2013/10/17 (Thu) 08:36 | EDIT | REPLY |   
メビウス  

故意はいけませんね

>cyazさん♪

あの看護士の妬みからくる故意の取り違えは当事者じゃなくとも憤ってしまう行為ですね。上記で自分が綴っている『金田一少年の事件簿』でも実は結構似通った動機で子供を入れ替えていたので、そこをちょっと思い出してしまいましたね。・・確か嬰児交換って呼ばれておりました。

でも本作はその看護士があまり物語に絡んでこなかったのはある意味正解かもしれませんね。彼女まで介入しちゃうとホント最後までドロドロしてそうで、終わった後は重い足取りだったに違いなかったでしょうから・・^^;

2013/10/17 (Thu) 20:14 | EDIT | REPLY |   
はらやん  

こんばんは

メビウスさん、こんばんは!

良多から見てほんとの父親はあまり父親らしいとは思えず、それを反面教師としての自分としての理想の父親であろうとしたんでしょうね。
でもその理想像はどちらかというと頭で考えられたものであったので、何か冷たさのようなものが感じられるのでしょう。
感情的というとうよりはとても理性的な人な分、すごく不器用な人に思えました。
だからこそラストは彼がとても感情を素直に表していて、良いなと思いました。

2013/12/05 (Thu) 20:43 | EDIT | REPLY |   
メビウス  

反面教師

>はらやんさん♪

良多の父親に関しては劇中内においてもそれほど詳しく描かれていなかった感じはしたのですが、良多の両親に対するちょっと素っ気無い素振り等を見れば関係性は良好・・というように見えなかったのも然もありなん^^;慶多に何でも1人で出来るよう厳しく接してた教育も、そんな実の父のようになるまいとする反動なのかもしれませんね。
・・まあその分温もりが足りなかったようですけども、取り違えの事や斎木家との出会いはそんな彼に父性とは何たるかを気付かせてもくれたような気もします。

2013/12/07 (Sat) 21:37 | EDIT | REPLY |   

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