舟を編む

【監督】石井裕也
【出演】松田龍平/宮崎あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛
【公開日】2013年 4月13日
【製作】日本
【ストーリー】
出版社・玄武書房に勤める馬締光也は営業部で変わり者として持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見出され、辞書編集部に異動になる。新しい辞書『大渡海』は見出し語24万語。完成までおよそ15年。個性は揃いの辞書編集部の中で、馬締は辞書編纂の世界に没頭する。そんなある日出会った運命の女性。しかし言葉のプロでありながら、馬締は彼女に気持ちを伝えるに相応しい言葉が見つからない。問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか?馬締の思いは伝わるのだろうか・・・?
原作は昨年の本屋大賞の1位に選ばれたベストセラーのようですが、今回もやっぱし未読なので自分は表面的な部分・・まあ些か不純な動機ですがそれこそキャスティング目当てな鑑賞にもなっちゃいました^^;主演の松田龍平のぼへ~っとした無機質な表情だったり、宮崎あおいがまたまた妻役だったり、個人的には久しぶりにスクリーンで観たオダギリジョーだったりと、そんな魅力的な出演者が織り成す辞書作り物語ですが、これが思いの外見応えがあって良かったですね。
・・しかし本作は一言で現すとなるととにかく『地味』で、出版社内で変人扱いされている主人公・馬締光也が編集仲間と共に新しい辞書『大渡海』を長い年月をかけて完成させていく行程を2時間弱延々と見せているだけで、これって自分みたいに原作の内容をあんまり知らずに鑑賞に赴くとちょっと手痛いしっぺ返しをくらいそうな気もしますね。実際自分の周りのお客さんの何人かはすんごい生あくびをする声がちらほら聴こえてましたし、静かな印象もある作品だったので眠りこけてしまう人も少なからずいるとは思います。・・ただ個人的にこの作品はあくびとか眠気とかは全く無く見入ってまして、そういう状態になってたのはやはりこの作品が『辞書作り』というプロセスを懇切丁寧に描いてる点などが挙げられるんじゃないかなとも思います。
辞書は当然自分も手に取って利用した事が何度もありますけど、そこには編集者たち作り手による『超』が付くほどの地道な作業が背景にあり、また辞書が出版されるまでにも10年じゃきかないほどの長大な年月を費やし、完成を迎えられぬまま定年引退も少なくないと言うのですから自分にとっては仰天な事実ばかり。だからなのか、地味ではあるんですけど、何十万語もある言葉集めから語釈・校正などに絶句しつつも個人的には新鮮な作業工程に見えてしまい、加えて馬締を取り巻く辞書編集部の面々のやり取りもプラスアルファになっていましたからそれも何かと面白いっ。アルバイト雇っての最終工程の光景なんかもさながら漫画家の仕事場のように凄い修羅場になってたので、実はとてつもない重労働なのだというのにも気付かされますね^^;
あと辞書作りと並行した馬締と香具矢の恋模様なども口下手でおどおどしてる馬締の挙動がめちゃんこ初々しいもんですから、観ててなんかニヤニヤも絶えませんでしたねぇw他人とのコミュニケーションが苦手な分、ちょっとズれたとこもありそれがまた笑いを誘ってもいたので、個人的にはそういったトコも楽しくて良かったですね。
・・まあ確かに本作は終始淡々とした内容ですから途中で飽きちゃう可能性だって無きにしも非ずですが、それでも辞書作りや生きた言葉の持つ深い意味などにやりがいを見出した馬締の15年という歳月は、1つの事に対して人生を捧げる位本気になり、初志貫徹を成し遂げた妥協なしのイチ仕事人という視点で観ると、オダジョー演じる西岡が言ってたようにかなり『熱い』ものを感じ取る事が出来るので、結果的には自分も面白く観る事が出来たのでしたっ。